一般的に「社会福祉士試験は難易度が高い」と言われています。そのため受験そのものを迷っている人もいることでしょう。たしかに社会福祉士試験の合格率は低いのですが、実のところ問題そのものの難易度はそれほどでもありません。
そこでこの記事では、社会福祉士試験の難易度を試験内容や合格基準の観点からご紹介。さらに「社会福祉士の試験難易度が高い理由」「資格取得のための学習方法」についても解説します。
なお、「介護福祉士の資格難易度」について知りたい方は、こちらで解説を行っていますのでぜひ確認してみてくださいね。
社会福祉士の資格難易度は高い?
社会福祉士は国家資格であるため社会福祉士試験を受験して取得します。上位一定数ではなく基準に達した人は全員合格となるので、知識をしっかり身につけてさえいれば合格することができます。
しかし、その合格率は高くありません。そのため、福祉系の資格の中では「難しい試験だ」というのが一般的な認識。それゆえ合格率や合格者の項目別割合を参考に、傾向を把握し、受験の心構えを作ることが大切です。
「難易度が低い」という評判をみても油断をすれば合格するのは難しいでしょう。社会福祉士の国家試験を受験する際は、入念に準備をしてください。
社会福祉士は受験者、合格者共に減少傾向
社会福祉士の国家試験は2018年以降、受験者、合格者共に減少傾向が続いています。
第30回(2018年) | 第31回(2019年) | 第32回(2020年) | 第33回(2021年) | |
受験者数 | 43,937人 | 41,639人 | 39,629人 | 35,287人 |
合格者数 | 13,288人 | 12,456人 | 11,612人 | 10,333人 |
国を挙げて介護業界の待遇改善に取り組んでいるので本来なら受験者が増えても良さそうなもの。それでも減少傾向なのは少子化が大きな要因だと考えられます。
事実、大学センター試験の受験者数も2018年から2021年にかけて約1割ほど減少しているのです。
受験者数が減っても難易度に変化はない
社会福祉士の受験者数は減っていますが、合格率をみるとほぼ横ばいです。
第30回(2018年) | 第31回(2019年) | 第32回(2020年) | 第33回(2021年) | |
受験者数 | 43,937人 | 41,639人 | 39,629人 | 35,287人 |
合格率 | 30.2% | 29.9% | 29.3% | 29.3% |
この表から分かるのは、社会福祉士の難易度はここ数年変わっていないということ。
例えば大学の入試問題などは毎年得点率が変動します。これはその年によって問題の難易度が変わるから。
その点、合格率が安定している社会福祉士は難易度に変動がなく、過去問を参考にした傾向と対策の把握が効果的な勉強方法だといえます。
社会福祉士試験の合格率からみる難易度
まずは社会福祉士の合格率をもとにその難易度をご紹介していきます。近年の社会福祉士国家試験の合格率は3割弱。この数値は高い合格率とは言えず、国家資格の中ではむしろ低めです。
当然、受験に挑むにあたって不安な方も多いことでしょう。そこで、直近の第33回の試験における項目別の合格割合から社会福祉士試験の傾向をご紹介していきます。
- 男女別合格割合
- 受験資格別合格割合
- 年齢別合格割合
それぞれは、厚生労働省が発表している「社会介護福祉士の試験結果」を参考にしています。データを参考に、現状の傾向を確認してみてください。
男女別合格割合
2021年2月に実施された第33回の合格者の男女別割合は次の通りです。
男 | 女 | 計 | |
人数 | 3,997人 | 6,946人 | 10,333人 |
割合 | 32.8% | 67.2% | 100% |
第32回は女性の割合が65.6%だったので、女性が若干増えています。
とはいえ近年は毎年ほぼ同程度の割合。
そのため社会福祉士は女性の方が多く、職場における男女比はおおむね1:4です。
性別の違いによる難易度の差はない
合格者の割合だけみると女性の方が圧倒的に多いのですが、これは女性の方が受かりやすいということではなく、女性の受験者が多いことが理由。
介護福祉士はパート・アルバイトの求人が多く、主婦や子供がいる人でも働きやすいことが背景にあると考えられます。
そもそも、社会福祉士の試験には実技がないので、男女の身体的違いが合格率に影響することはないのです。
受験資格別合格割合
下の表は第33回の受験資格別の合格割合です。
福祉系大学等卒業者 | 養成施設卒業者 | 計 | |
人数 | 5,826人 | 4,507人 | 10,333人 |
>割合 | 56.4% | 43.6% | 100% |
前年の第32回は福祉系大学等卒業者が56.7%、養成施設卒業者が43.3%なので、割合の変動はほとんどありません。
大学によって合格率が大きく異なる
社会福祉士の合格率を大学ごとにみると、かなりばらつきがあることが分かります。
<合格率TOP5の大学>
順位 | 大学名 | 総合格率(受験者数) | 新卒合格率(受験者数) | 既卒合格率(受験者数) |
1位 | 大分大学 | 89.5%(38人) | 97.1%(35人) | 0.0%(3人) |
2位 | 東京都立大学 | 89.5%(19人) | 93.8%(16人) | 66.7%(3人) |
3位 | 徳島大学 | 87.5%(16人) | 93.3%(15人) | 0.0%(1人) |
4位 | 新潟大学 | 82.6%(23人) | 82.6%(23人) | 0.0%(0人) |
5位 | 大阪市立大学 | 81.8%(11人) | 90.0%(10人) | 0.0%(1人) |
福祉系大学等卒業者は全合格者の約56%。かりにどの大学も80%以上の合格率なら全体の合格率はかなり高くなり、「難易度の低い試験」という評判になるはずです。
しかし実際の全体合格率は約30%にとどまっており、合格率の低い大学が多々あると推測されます。
社会福祉士を目指して大学を選ぶ場合は必ず先輩達の合格率をチェックしましょう。
年齢別合格割合
第33回の年齢別合格割合は以下の通りです。
人数 | 割合 | |
〜30歳 | 4,913人 | 47.6% |
31〜40歳 | 1,813人 | 17.5% |
41〜50歳 | 2,149人 | 20.8% |
51〜60歳 | 1,172人 | 11.3% |
61〜歳 | 286人 | 2.8% |
計 | 10,333人 | 100% |
前年と比較しても、各年齢別に1%未満の変化があるくらいで、割合分布はほとんど変わりません。
社会人は勉強時間の確保がポイント
社会福祉士の合格者は30歳以下がおよそ半数。これには二つの理由があります。
- 大卒後すぐに受験する人が多い
- 社会人になってからでは勉強時間の確保が難しい
福祉系大学等卒業者がいることを考えれば30歳以下の合格者が多いのは当たり前のことです。とはいえ、31~40歳とは合格者数に大きな開きが。これは、社会福祉士の勉強と仕事の両立が難しいことを示しています。
実際、社会福祉士の試験範囲は非常に広いので、働きながらだと勉強時間が不足します。したがって社会人になってから社会福祉士を受験する場合は、十分な勉強時間を確保できる環境づくりが重要なのです。
社会福祉士の合格ラインから見る難易度
社会福祉士国家試験の合格基準は以下の条件を満たした者と定められています。
- 問題の総得点の60%程度を基準として、問題の難易度で補正した点数以上の得点の者
- 1を満たした者のうち、18科目群すべてにおいて得点があった者
ただし、社会福祉士及び介護福祉法施行規則第5条の2の規定による試験科目の一部免除を受けた受験者にあっては、配点は1問1点の67点満点で、7科目群となります。
過去の合格基準点
過去5年間の合格基準点は以下の通りです。
実施時期 | 合格基準点/総得点 |
第33回 2021年2月7日 | 93点 / 150点 |
第32回 2020年2月2日 | 88点 / 150点 |
第31回 2019年2月3日 | 89点 / 150点 |
第30回 2018年2月4日 | 99点 / 150点 |
第29回 2017年1月29日 | 86点 / 150点 |
社会福祉士の試験は「6割が合格基準点」と言われています。150点満点の試験なので合格基準点は90点。
ただし、問題の難易度によって基準点に補正が入ります。
なお、第30回は9点上がっていますが、ここ5年間で唯一合格率が30%を越えた回でした。
6割を目指すのは間違い
合格基準が6割だからといってそこを目指すのは間違いです。なぜなら、試験本番では緊張するため実力を存分に発揮できないことが多いから。
そもそも、「18科目群すべてにおいて得点」というルールがあるので、6割を目指していると無得点の科目が発生するリスクもあります。(特に不得意科目において)
したがって6割はあくまでも目安・最低ラインととらえ、実際には7割以上を目指して勉強することをおすすめします。
社会福祉士の試験から見る難易度
社会福祉士の試験は年に1回、2月上旬または1月下旬に実施されます。
午前中に共通項目の11科目、午後に専門科目の7科目群を受験し、試験時間は1日を通して計240分です。
科目は、同じ福祉国家資格の精神保健福祉士と共通の試験内容になるので、精神保健福祉士をすでに取得している方は、共通科目は免除されます。
さらに具体的に、以下3つも見て行きましょう。
- 受験資格
- 試験内容
- 合格基準
それぞれの内容から、試験難易度の参考にしてください。
受験資格
社会福祉士を受験するには12のルートがあり、いずれかの条件を満たしていることが必須です。
そのなかから主な受験資格を紹介するので参考にしてください。
- <福祉系大学で指定科目を修めて卒業した者(卒業見込み受験可)
- 2年制(または3年制)短期大学で指定科目を履修し卒業し、指定施設で2年以上(3年制短期大学なら1年以上)相談援助の業務に従事した者
- 社会福祉士短期養成施設(半年以上)を卒業した者(卒業見込み受験可)
- 社会福祉士一般養成施設(1年以上)を卒業した者(卒業見込み受験可)
指定施設で実務を4年以上積んでいる方や、一般の大学を卒業した方、一般の短期大学卒業後に定められた期間以上実務を従事した方も、一般養成施設に通うことで受験資格を得られます。
学生のうちにしっかり勉強しておくこと
試験の出題範囲を考えると勉強に専念できる学生のうちにしっかり学んでおくことが大事です。
それは前述した年齢別の合格者割合からも分かるはず。
したがって、新卒受験の一発合格を目指し、卒業までの時間から逆算して計画的に勉強を進めてください。
試験内容
試験内容は18科目群から出される150問を時間内に解きます。
出題形式は五肢択一が基本ですが、近年では二つ選ぶ問題も増えているので、設問はしっかり確認しましょう。
なお、出題科目は以下の通りです。
共通科目 |
|
専門科目 |
|
どちらも幅広いので、しっかり対策を考えて学習を行いましょう。
テキストを覚えれば誰でも解ける
難関大学の入試では学校の教科書に書かれていない問題が度々出題されます。そのため、書店でより高度な参考書や問題集を購入して勉強しなければ対応できません。
一方、社会福祉士の試験は勉強が楽です。なぜなら、どの出版社のテキストもほぼ同じレベルで作成されており、そこに書かれていることだけを覚えれば良いから。
「こんな問題見たことない」などという状況は発生しないので、毎日数ページずつテキストの内容を覚えていくだけで合格ラインに到達するのです。
合格基準
社会福祉士の試験で大きな落とし穴になるのが、「18科目群すべてで得点しなければならないこと」です。万が一1科目でも0点があると、他がどんなに高得点でも不合格になります。
しかも問題数が少なく7点しか配点されていない科目が18科目群中13科目もあります。
とにかく不得意科目を作らないこと
0点科目があると不合格なわけですから、社会福祉士の試験では不得意科目を作らないことが大前提。複数の過去問を解いてみると理解の浅い科目が見えてくるはずなので、しっかり対策してください。
また、得意科目をのばすという勉強方法も不向きです。なぜなら、前述の通り18科目群中13科目において7点しか配点されないから。
伸びしろがないので特定の科目のエキスパートになっても合格には近づきません。
社会福祉士の資格の難易度が高い3つの理由
合格率の低さから難易度が高いと思われている社会福祉士ですが、試験内容が飛び抜けて難しいというわけではありません。むしろ問題そのものは国家試験のなかでも簡単な方。
合格率に影響しているのは、間違った学習方法や、学習時間の確保ができず準備不足での受験といった理由が挙げられます。
- 出題範囲が広い
- 身近で資格を取得している人が少ない
- 思ったほど勉強がはかどらない
なぜそれぞれが影響しているのかを以下で解説しますので、どういった準備や対策をしたらいいか、学習方法の参考にしてください。
出題範囲が広い
社会福祉士国家試験で難易度を上げているのが出題範囲の広さです。福祉系の資格の中でもっとも科目数が多く、各科目を深掘りしていると勉強時間が足らなくなります。
そのため広く浅くという意識をもち、テキストを何週も読み返さなければなりません。
緻密な学習計画を立てた者が合格する
出題範囲の広い試験に挑む際に必要となるのが綿密な学習計画。
一日に勉強できる時間と試験までの残りの日数をもとに、毎日の勉強量を計算してください。
あとは定期的に計画との差異をチェックし、大幅な遅れがでないようにこなしていくだけ。社会福祉士の試験に限らず勉強ではスケジュール管理が非常に重要なので必ず行いましょう。
身近に資格を取得している(学んでいる)人が少ない
勉強を継続するモチベーションにも関わってくるのが、相談できる人や競争できる人が身近にいるかどうかです。
同じ大学や養成施設を卒業された先輩に資格をとっている方がいれば相談にのってもらえるかもしれません。しかし、社会人受験者の方の場合はなかなか身近に相談できる人がいません。
実際、認定が開始された1987年から令和3年2月末までの累積登録者は25万人で、日本の人口から割合を出すと500人に1人しかいない計算になります。
スクールに通って勉強仲間を作る
社会福祉士試験は受験までの期間が長いことが特徴。その間、相談できる人が身近にいないとモチベーションが低下してしまいます。
そこでおすすめなのがスクールに通うことやSNSで同じく社会福祉士を目指す仲間と交流すること。いずれも自分の現在地の把握やモチベーションの維持に効果的です。
こうして得た人脈は就職活動時の情報交換にも活用できますから、息抜きの意味も含めて勉強仲間と交流する時間を設けましょう。
思ったほど勉強がはかどらない
社会福祉士受験においては最低でも300時間の勉強時間が必要とされています。(受験資格を得るための期間は別途)
「1日3時間を約3ヶ月」という計算になり、見方によっては楽なように思えます。しかし、300時間で足りるのは予備知識がある人だけ。
専門的な語句が頻繫に登場するので、予備知識がない人は300時間では足りません。そのため勉強に必要な期間を見誤り、準備不足のまま試験に臨む人が多いようです。
学習計画は1年間で立てる
社会福祉士の学習計画は1年間を目安にしてください。また、毎日の勉強時間は2時間を確保。これによって、365日 × 2時間 = 730時間勉強できます。
試験前の総復習に30時間ほど消費するでしょうから残りは700時間。この700時間でテキストを何週も読み直しすべて覚えるようにしましょう。
試験難易度の高い社会福祉士を目指すポイント
難易度が高い理由からわかるように、社会福祉士国家試験は地道な学習の積み重ねが大切です。また、出題範囲が広いので、効率よくテキストの内容を吸収する必要があります。
そこでおすすめなのが、以下のような学習方法です。
- アプリで日常的に学ぶ
- 講座で学ぶ
なぜそれぞれの勉強方法がおすすめなのか、以下で具体的に解説します。
アプリで日常的に学ぶ
隙間時間で効率的に勉強をしたい方におすすめなのが、社会福祉士国家試験対策アプリの「グッピー」です。
社会福祉士過去5年分の過去問を、正解するまで何度もチャレンジできるサーキット・ラーニング方式で、全問に解答・解説の他、過去の正解率が付いています。
気になった問題を再確認できる便利な付箋機能に、全問終了後にはキーワード検索で苦手な問題を探すことも可能です。また友人を誘って競争することもできるので、モチベーションアップにもつながります。
講座で学ぶ
社会福祉士学習ペースの見通しが付きにくかったり、学習計画を立てる自身がないという方は、受験対策講座を受講するのがおすすめです。
カリキュラムがあるので、自分で計画を立てなくても全科目を効率的に学習できます。また、社会福祉士は法改正が頻繁に起こる分野です。
講座ならその点もしっかりカバーしてくれるというメリットがあります。短期での通学講座や、自分のペースで学習できる通信講座など、自分の環境に合わせられそうな講座を探してみましょう。
資格難易度の高い社会福祉士でも合格できる
一般的に「社会福祉士の資格は難易度が高い」と言われています。その合格率は30%ほどしかありませんから、難易度が高いように思えるのも当然でしょう。
しかし、問題そのものはテキストに書かれている範囲で構成されており、決して難しくはありません。難しいと感じるのは勉強不足でテキストの内容がしっかり頭に入っていないから。
逆にいうと、しっかりテキストの内容を吸収しておけば、難易度はそれほどでもないということです。緻密な学習計画を立てて1年前から準備すれば合格に必要な知識は十分に習得できるはず。
したがって、合格率の低さに臆することなく、強い気持ちをもって行動を起こしてください。