要介護者にとって安心感があり、かつ生活スタイルに合わせて利用できる在宅介護サービスがあるのをご存知ですか?
本記事では、『小規模多機能型居宅介護』について解説。
介護業界で働いていても小規模多機能型居宅介護について知らない方は意外と多く、興味を持っている方はたくさんいます。
小規模多機能型居宅介護の特徴や他の介護サービスにはない魅力があり、就職や転職を考えている方は必見!
前半では『小規模多機能型居宅介護について』や『利用するメリット・デメリット』を、後半では『役立つ資格』や『看護小規模多機能型居宅介護との違い』について触れています。
小規模多機能型居宅介護について知りたい方はもちろん、利用を検討している方もぜひ参考にしてみてくださいね。
また、「看護小規模多機能型居宅介護」について知りたい方は、こちらで解説を行っていますのでぜひ確認してみてくださいね。
小規模多機能型居宅介護とは?
小規模多機能型居宅介護とは、1つの事業所が通所・訪問・宿泊の3つの介護サービスを提供する小規模な居住系の介護保険サービスです。
中重度の要介護者となっても、在宅での生活を継続できるような支援を行っています。
超高齢社会で増加が見込まれる認知症高齢者や中重度の要介護高齢者が、住み慣れた環境で生活できるようにと2006年4月の介護保険制度改正を受けて創設されました。
デイサービス(通所)
自宅から通って利用します。
午前中や午後だけといった必要に応じた利用ができ、食事やレクリエーション、入浴等が提供されます。
1日の通所定員は18名までです。
ホームヘルプ(訪問)
利用者が自宅で過ごしたい日や、デイサービス利用のための支度に支援が必要な際に利用します。
介護スタッフが利用者の自宅に訪問し、必要な支援を行います。
ショートステイ(宿泊)
介護者が不在になる場合や、利用者からの希望があれば宿泊をすることもできます。
デイサービスを利用してそのまま宿泊することもできますし、夜から来所して宿泊することも可能です。
1日あたりの宿泊利用定員は9名までです。
小規模多機能型居宅介護を利用するメリット・デメリット
小規模多機能型居宅介護が誕生した背景には、突発的な状況にも柔軟に対応できるようにという狙いがあります。
また、一つの施設で決まった職員が介護サービスを提供するため、情報共有がしやすく、利用者からしても安心感があるのがメリットです。
もちろんメリットがあればデメリットもありますので、本項ではそれぞれ詳しく解説していきます。
メリット
まずはメリットからですが、主に以下のようなものが挙げられます。
- 24時間365日利用可能
- 月額定額制
- 1回の契約で3つのサービスが利用可能
- 連続性のあるケアが受けられる
- 柔軟にサービスを利用できる
この他にもありますが、大きなところでは上記5つです。
介護サービスだけなら複数のサービスを組み合わせれば事足りますが、快適性に安心感と柔軟性をプラスできるのが小規模多機能型居宅介護の魅力となっています。
24時間365日利用可能
定員数にさえ気をつければ、通所・訪問・宿泊の3つの介護サービスを24時間365日何回でも利用可能です。
高齢者は心身の状態が不安定なケースが多いので、時間や回数を気にせず利用できるのは大きなメリットと言えます。
月額定額制
介護保険サービスは介護度別に毎月の介護保険支給限度基準額が決まっています。
要支援1 | 3,438単位(自己負担額:3,438円) | ||
要支援2 | 6,948単位(自己負担額:6,948円) | ||
要介護1 | 10,432単位(自己負担額:10,432円) | ||
要介護2 | 15,318単位(自己負担額:15,318円) | ||
要介護3 | 22,283単位(自己負担額:22,283円) | ||
要介護4 | 24,593単位(自己負担額:24,593円) | ||
要介護5 | 27,117単位(自己負担額:27,117円) |
そのため、複数の介護サービスを利用すると費用が高くなり、場合によっては介護保険支給限度基準額を超えてしまうことも。
小規模多機能型居宅介護は月額定額制で、もちろん介護保険支給限度基準額内ですから、何度利用してもはみ出す心配がありません。
1回の契約で3つのサービスが利用可能
通所・訪問・宿泊の介護サービスをそれぞれで利用しようとすると、契約が3回必要となります。
小規模多機能型居宅介護であれば1回の経絡でそれぞれのサービスを利用できるため、契約の手間を大幅に省くことができます。
連続性のあるケアが受けられる
1つの事業所が3つのサービスを提供するので、情報共有がしやすい、同じスタッフが担当するといった特徴があります。
別々で利用するよりも安心感と連続性のあるケアが受けられるため、新しい環境になかなか馴染めない方や、環境の変化に敏感な方にはとてもおすすめです。
柔軟にサービスを利用できる
それぞれの介護サービスを単体で利用する場合、何ヶ月も前から予約が必要だったり、時間制限があったりと思ったように利用できない不自由さがありました。
しかし、小規模多機能型居宅介護の場合は通所からそのまま宿泊サービスを利用するといったように、状況や体調に合わせて柔軟にサービスを利用できます。
デメリット
小規模多機能型居宅介護の主なデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
- ケアマネージャーの変更
- 利用できるサービスに限りがある
- 利用回数が少ないと割高になる
- 部分的な不満があっても事業所変更ができない
利用状況によっては致命的といえるものもあるでしょうから、利用前にしっかり検討しましょう。
ケアマネージャーの変更
小規模多機能型居宅介護を利用するのであれば、事業所に所属しているケアマネージャーに担当してもらう必要があります。
もしも他の介護保険サービスをすでに利用していて、担当のケアマネージャーがいる場合には変更しなければなりません。
利用できるサービスに限りがある
それぞれ単体でサービスを利用する場合には自由に契約できますが、小規模多機能型居宅介護は併用できるサービスが限定されます。
場合によっては今まで利用していたサービスが利用不可となるので注意しましょう。
ただし、併用不可のサービスは基本的に小規模多機能型居宅介護でカバーできます。
契約をし直す手間が発生しますが、サービス自体の利用は可能です。
併用可能 | 訪問看護、訪問リハビリステーション、居宅療養管理指導、福祉用具貸与、住宅改修 | |||||
併用不可 | 居宅介護支援、訪問入浴介護、デイケア、デイサービス、ショートステイ |
利用回数が少ないと割高
月額定額制ということで、どんなに多く利用しても反対にどんなに利用しなくても基本料金は変わりません。
デイサービスであれば月10回未満なら単体で契約した方が安くなることもありますから、利用回数が少ない方は事前にしっかり検討する必要があります。
部分的な事業所変更ができない
1つの事業所が3つのサービスを提供しているため、「通所と宿泊はいいけどホームヘルプがちょっと…」なんてときも部分的な事業所の変更はできません。
それでもどうしても変更したい場合には、小規模多機能型居宅介護を解約する必要があります。
小規模多機能型居宅介護で働くやりがい
小規模多機能型居宅介護は1つの事業所で3つのサービスを提供するため、これまでそれぞれ単体の事業所で働いていた人は慣れるまで時間がかかるでしょう。
しかし、これまで制度上の問題で不可能だった支援が行えるようになるので、他の介護保険サービスにはないやりがいがあります。
利用者に一貫した介護ができる
3つの介護保険サービスを提供しているので、「どうにかしてあげたいけど制度上どうしようもできない…」といったモヤモヤした感情を抱える機会がぐっと減ります。
小規模多機能型居宅介護には利用者の状況に合わせた介護保険サービスを提供する環境が整っていますから、笑顔を見たり感謝される機会も増えるでしょう。
介護職のスキルアップになる
1つの事業所にいながら複数のサービスに携わるため、対応可能な介護業務に幅が出てきます。
スキルアップというと資格に目がいきがちですが、できることを増やす(自身の経験値を上げる)のも立派なスキルアップです。
小規模多機能型居宅介護で役立つ資格
ここまで小規模多機能型居宅介護と利用者側のメリット・デメリットについて解説してきましたが、「働いてみたい!」と思った方もいるでしょう。
本項では小規模多機能型居宅介護で働く上で優遇されたり、就職や転職に有利になる資格をご紹介します。
運転免許
小規模多機能型居宅介護に限りませんが、利用者の送迎や買い出しなど車を運転する機会は意外と多いです。
特に車社会の地方では必須条件といっても過言ではありません。
送迎できる人員が豊富であれば運転免許なしでも問題ありませんが、プライベートにおいても持っていて損はない資格といえます。
介護職員初任者および実務者研修
介護職員初任者研修は介護職のファーストステップともいえる資格で、無資格・未経験の状態からでも取得可能です。
一方の介護職員実務者研修ではさらなる専門性を習得でき、サービス提供責任者になれたりと活躍の場が広がります。
国家資格である介護福祉士受験資格の1つになるため、キャリアアップを考えているなら欠かせない資格です。
介護福祉士
介護職で唯一の国家資格であり、介護の専門的な知識や技術を有している証でもあります。
所有していれば就職および転職において非常に有利ですし、現場ではスタッフの指導やアドバイスを行うなど責任あるポストに就く機会も増えるでしょう。
上位資格として認定介護福祉士が存在します。
介護支援専門員(ケアマネージャー)
介護を必要とする方が適切な介護保険サービスを受けられるように、サービス計画書(ケアプラン)の作成や各事業者との調整を行うのが介護支援専門員(ケアマネージャー)です。
資格を取得するためには基礎資格や実務経験が必要となるため、難易度は高めですがその分優遇される傾向にあります。
中には資格取得後に現場でさらなる経験を積み、独立してケアマネージャー事務所を構える人もいます。
看護小規模多機能型居宅介護との違い
小規模多機能型居宅介護と同じようなものに看護小規模多機能型居宅介護があります。
最初に看護という単語がついていることからも想像できますが、小規模多機能型居宅介護に訪問看護サービスをプラスしたものです。
訪問看護サービスの有無
「利用者が可能な限り自立した生活を送れるように支援する」という目的は小規模多機能型居宅介護と同じです。
通所・宿泊・訪問といった介護サービスに加えて、看護師による訪問看護が受けられるようになります。
24時間365日利用できて月額定額制という基本的な部分も変わりませんが、基本料金が3,000~10,000円ほど高くなります。
医療依存度の高い人向け
例えば胃ろうや喀痰吸引、血糖値測定などは医療行為ですが、配偶者が高齢で対応できない、子供が日中は仕事で不在といったケースが増えています。
一人暮らし世帯まで含めると、退院したあとも医療的な処置を必要とする人は増加傾向にありながら、それを支える介護・看護の連携体制は十分なものとは決して言えません。
このように医療ニーズの高い要介護者への支援を目的としたのが看護小規模多機能型居宅介護であり、”医療機関や介護施設と在宅との中間施設”に位置づけられています。
看護師・准看護師の資格があればなお良し
介護職員として働く場合には制度上の必要資格こそないものの、前述の介護職人初任者研修および実務者研修、それから介護福祉士を取得していると有利です。
また、看護師・准看護師として働く場合には、当然それぞれの国家資格を取得しなければなりません。
他にもリハビリを提供する場合には理学療法士や作業療法士の国家資格など、配置に応じた資格を有していると就職・転職を有利に進めることができます。
いつでも頼れる施設、それが小規模多機能型居宅介護
超高齢社会を迎えた日本のこれからの高齢者介護は、住み慣れた環境でいかに安心して生活できるかが大きなポイントとなるでしょう。
支援の方法やサービス内容にこだわりすぎず、利用者のその時の状況に応じてサービスを選べる柔軟性が小規模多機能型居宅介護にはあります。
複数の介護保険サービスを担うのは簡単なことではありませんが、重要な社会資源の1つとして今後ますます多くの人から頼りにされることでしょう。