常に人手不足状態である介護士は安定して長く働ける仕事。それゆえ他業界から介護士への転職を検討する人が増えています。
しかしながら、介護関連の資格がたくさんあるため、「転職した後のキャリアアップについて分かりにくい」という声も。
新卒に比べてスタートが遅れている転職組にとってはキャリアアップの最短ルートが気になるところでしょう。
そこでこの記事では、介護士のキャリアアッププランとそれに必要な資格をご紹介します。
また、「各資格の難易度や取得方法」について知りたい方は、こちらで解説を行っていますので併せて確認してみてくださいね。
転職後、最初に目指すのは介護福祉士
介護士に転職して最初に目指すのは介護福祉士です。
介護福祉士はその後のキャリアアップのベース的な位置付けとなるので、最速かつ全力で目指すべき。
国家資格ではありますが難易度は低いので、専門の学校に通っていない転職組でもわりと簡単に取得できます。
介護福祉士になるには
介護福祉士になるには「実務経験ルート」「養成施設ルート」「福祉系高校ルート」という3つのルートがあります。
これらのなかで他業界からの転職者が進むのは実務経験ルートです。
実務経験ルートであれば介護士としての実務を積みながら必要な知識を身につけることができます。
労働と勉強の両立は大変ですが、職場の資格取得支援制度を利用することで受講料が安くなる(又は無料になる)のがメリットです。
具体的には介護職員初任者研修を修了させ、その後、介護福祉士実務者研修を受講するという手順になります。(実務経験が3年以上必要)
介護職員初任者研修
介護職員初任者研修では介護の基礎知識・スキルを学びます。以前はホームヘルパー2級と称されていましたが2013年4月に現在の名称に変わりました。
介護職員初任者研修を修了させるには初任者研修講座を開講しているスクールに通って所定のカリキュラムを終え、最後に修了試験(筆記)で合格しなければなりません。
カリキュラムは全10項目130時間。通常なら3~4ヶ月かかりますが通信講座を使うことで短縮することも可能です。
なお、カリキュラムの受講条件、受験資格はありません。
介護福祉士実務者研修
介護福祉士実務者研修(旧ホームヘルパー1級)ではより質の高い介護サービスを実現するために、実践的な知識と技術の習得を目指します。
研修に要する時間は450時間。かなり長期戦なように思えますが、介護職員初任者研修を受講していればその分の130時間は免除されます。
また、通信教育の活用により短時間で学ぶことも可能なので、やる気さえあれば数ヶ月で学び終えることでしょう。
介護福祉士の上位資格もある
介護福祉士の上位資格として2015年に認定介護福祉士という資格が設けられました。
これは一般社団法人 認定介護福祉士認証・認定機構による民間資格で、介護福祉士よりもさらに高度かつ多様な知識やスキルの習得を目指すものです。
また、同僚介護職員のサービス力を向上させるべく、知識や技術の面で指導するスキルと実践力も学びます。
認定介護福祉士の資格は誕生から間もないため2021年の時点で資格保有者は100名足らず。取得後の待遇アップも明確になってはいません。
しかしながらこの資格の本質を考えると今後においてニーズが高まるはずであり、管理職への登竜門的な位置付けになると思われます。
認定介護福祉士の取得方法
認定介護福祉士を取得するには介護福祉士としての実務経験が5年以上必要です。
さらに認定介護福祉士養成研修(約1年)を受講しなければなりません。介護士時代から通算して8年以上かかるわけですから、「介護の現場で長く働くんだ」という強い気持ちが必要。
そこに明確なゴールを見いだせないのであれば、安易に手を出さない方が無難かもしれません。
介護福祉士からのキャリアアップ
介護福祉士の資格がとれたら選択肢が大きく広がります。
前述の認定介護福祉士を取得して介護士の最前線で働き続けるのも良いのですが、もっと広い視野で介護というものをとらえてキャリアアップさせることもできます。
なかでも以下の5つはおすすめのキャリアアッププランですので、「現場の介護士とは違った役割を担ってみたい」という人は目指してみると良いでしょう。
<おすすめのキャリアアッププラン>
- 施設長などの管理職
- ケアマネージャー
- 生活相談員
- PT・OT・ST
- 独立開業する
施設長などの管理職
介護士として転職するということは何らかの介護施設で働くということ。
当然そこには管理職がいますから、そのポストを狙うのが一番堅実なキャリアアッププランです。
実直に業務をこなしコツコツと資格を取得していけば、どこかで必ず管理職への道が開けてくるはずですよ。
管理職になるには
管理職になるには一つの介護施設で長く働いても良いのですが、他の介護施設へ管理職として転職するという手もあります。
とくに前職で何らかの管理職経験がある人はそのノウハウを生かす大チャンス。
転職サイトには管理職の募集も載っていますから、十分な実務経験を積んだところで応募してみると良いでしょう。
ケアマネージャー
ケアマネージャーとは介護を必要とする人が介護保険サービスを受けられるように、ケアプラン(サービス計画書)の作成やサービス事業者との調整を行う仕事。
ケアマネージャー ⇒ 認定ケアマネージャー ⇒ 主任ケアマネジャーという順でキャリアアップしていくことができます。
最上位の主任ケアマネジャーになると新人ケアマネージャーの育成やケアプラン作成のフォローなどが主な業務に。
「主任」の名にふさわしく後方支援の仕事としては最高峰といえます。
最前線の介護士のように直接介護に携わることはありませんが、それなりの給料が期待できるのと介護士よりは体力的に楽なのが魅力です。
ケアマネージャーになるには
ケアマネージャーになるには指定業務を5年以上かつ900日以上経験し、介護支援専門員実務研修受講試験に合格する必要があります。
その後、研修を受講して修了すれば晴れてケアマネージャーです。
認定ケアマネジャーになるにはケアマネージャーとして3年以上の実務経験を積んだ後、申請書類を提出して審査を受けます。
最後に口頭試験を受け、そこで合格すれば5年間の資格が得られます。(5年後に更新)
主任ケアマネジャーになるには5年以上のケアマネジャー実務を積んだ後、所定の研修を受けます。(試験はありません)
また、認定ケアマネジャーの資格を有している場合は必要実務経験が3年に短縮されます。
生活相談員
生活相談員はソーシャルワーカーとも呼ばれ、ケアマネージャーや地域、他機関との連携、調整をするのが仕事です。
多くの業務でケアマネージャーと似ていますが、より広範囲での連携や調整を行うため、それに伴って多分野での知識が求められます。
生活相談員になるには
生活相談員は肩書きに過ぎず、国家資格ではありません。ただし、下記のうちいずれかの資格が必要になります。
- 社会福祉士
- 精神保健福祉士
- 社会福祉主事任用資格
また、都道府県によってはケアマネジャーが要件に含まれている場合もあります。
PT・OT・ST
PT・OT・STとはそれぞれ「理学療法士(PT)」「作業療法士(OT)」「言語聴覚士(ST)」の略称です。
いずれも身体機能障害の回復トレーニングを行いサポートするリハビリ職。
介護士の仕事とはやや毛並みが異なりますが、それまでの実務経験は存分に生かます。
理学療法士(PT)になるには
理学療法士になるには、養成校で3年以上学び国家試験に合格しなければなりません。
もっとも、試験の難易度は低く毎年受験者の8割前後が合格します。
養成校で配布されるテキストをしっかり頭にいれておけば、それ以上の特別な勉強は必要ないでしょう。
作業療法士(OT)になるには
作業療法士になるは国家資格の「作業療法士資格」を受験します。
受験資格は養成校で3年以上学ぶこと。
理学療法士と同じく試験の難易度は低いので、養成校の講義にしっかりついていけば問題ありません。
言語聴覚士(ST)になるには
言語聴覚士になるには以下のいずれかの条件を満たした上で国家試験に合格しなければなりません。
- 都道府県が指定する言語聴覚士養成校を卒業する(3~4年制)
- 文部科学大臣が指定した大学や短大を卒業して審査を受ける(3~4年制)
- 大学や専門学校等で指定された科目を履修し言語聴覚士養成校を卒業する(1年)
理学療法士や作業療法士に比べると国家試験の難易度は高く合格率は65%前後。
難易度が高いわりに待遇の面では理学療法士や作業療法士と変わらないので、効率よくキャリアアップしたい転職組にとってはややメリットの少ないかもしれません。
独立・開業
介護士にとって最高のキャリアアップといえば独立・開業することです。
福祉に携わるやりがいとは別に、経営者としてのやりがいも感じることができます。高齢化社会が進む日本ですからビジネスチャンスも十分。
他のキャリアアッププランよりハードルは高いものの、野心家の人は是非とも目指したいところです。
独立・開業するには
介護業界で独立・開業する際には、「サービス提供責任者が1名以上いなければならない」という規則があります。
このサービス提供責任者とは、介護福祉士・看護師・准看護師・保健師・実務者研修・ホームヘルパー1級・介護職員基礎研修などの有資格者です。
キャリアアップの初期段階で介護福祉士を取得しているはずですから規則上は特に問題ないのですが…
良い介護サービスを提供するには様々な資格が必要であり、人材の確保が最大のネックとなります。
ちなみに、法人形態は株式会社、合同会社・合資会社・合名会社、NPO法人、医療法人、社会福祉法人、社団法人・財団法人、協同組合のいずれでもOK。
現在は株式会社かNPO法人として活動しているところが多いようです。
他業界へ再度転職するという手もある
介護士としての実務経験を生かして他業界へ再度転職するという手もあります。
とくに看護師と保育士は介護福祉士の資格があると資格取得が有利になるため大変おすすめです。
看護師
介護と医療は密接な関係にあります。実際、介護士と看護師は連携して仕事にあたることが多く、「看護師になってより多くの業務を担当したい」という気持ちが芽生えがち。
現場では看護師じゃなければできないこともあり、介護士の業務範囲の狭さにもどかしさを感じることもあります。
また、「安定した仕事を得たい」という気持ちが出発点の人にとって、看護師は介護士以上に魅力的な仕事といえるでしょう。
看護師になるには
介護士から看護師になるには看護師国家試験に合格する必要があります。
そのためには専門学校もしくは看護大学で所定の科目を終了していることが条件。医療系の学校は学費が高いので躊躇する人もいることでしょう。
しかし、「介護福祉士の資格がある場合は約1年短いカリキュラムで卒業できる」という新制度の導入が間近に迫っており、今後は介護士から看護師を目指す人が増えると思われます。
保育士
保育士の資格試験では、介護福祉士資格を保有していると9科目中3科目が免除されます。
保育系の学校を卒業しない限り保育士試験は必須となりますから、それが3科目も免除されるのは非常に有利。
もちろん、実務においても介護士時代の経験が大変役立ちます。
保育士になるには
保育士資格を取得するルートには以下の4つがあります。
- 保育系大学・短大・専門学校などを卒業
- 大学、短大、専門学校に2年以上の在学+保育士試験の合格
- 実務経験2年以上(高卒)+保育士試験の合格
- 実務経験5年以上(中卒)+保育士試験の合格
介護士からの転職組がそのメリットを生かしつつ資格を取得するには、「大学、短大、専門学校に2年以上の在学+保育士試験の合格」というルートがおすすめ。
看護師ほど高いハードルではないので、子供好きの人にはおすすめのキャリアアッププランといえます。
他業界から介護士に転職してもキャリアアップできる
この記事では、他業界から介護士に転職する人のためにキャリアアッププランをご紹介しました。
介護士に転職して最初に目指すのは介護福祉士。
そこから
- 認定介護福祉士
- 施設長などの管理職
- ケアマネージャー
- 生活相談員
- PT・OT・ST
- 独立開業する
- 看護師
- 保育士
などへの道が開けます。
いずれにせよ資格取得がカギであり、実務をこなしながら勉強しなければなりません。
そういう環境がある職場を見つけることも大事なので、マイナビ介護などの転職サイトでキャリアアップにつながる職場を探すようにしましょう。